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船越英一郎に追い詰められた気持ち!?
崖っぷち アナトミー村本です。


「化粧品は夢を売る」商売です。
今日、私がお話する内容は化粧品メーカー
さんだったらタブーとされている内容だと
思います。ごめんなさい!

私のキャリアの出発点は医薬品の
安全性試験
です。
医薬品は効果がある代わりに
副作用を伴います。
抗がん剤の治療で必ず問題になるのが
副作用ですね。下痢や吐き気、脱毛は
必ずといっていいほど発現して来ます。
そこで、医薬品の基礎研究では動物や
人を使って有効性と安全性(毒性)を
確認しつつ、その間で効果を発揮できる
濃度範囲を決める試験を行うのです。
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出典:NR・サプリメントアドバイザー必携第3版

しかし、ほとんどの人で安全と考えられる
濃度でも、多くの人の中には特に敏感に
反応してしまう人もいるため、医薬品では
用法容量、副作用の出た場合の対処方法
など、決め事が多く、薬剤師が服薬指導
をして、添付文書にも事細かく注意書きを
書くことになっているのです。
「薬機法*」と言って(かつては薬事法と言
われていました)、医薬品の適正な使用が
法律でしっかり規制されています。

「効くクスリはリスクを伴う!」です。

*医薬品、医療機器等の品質、有効性
及び安全性の確保等に関する法律


一方、化粧品の効果って、どのように研究
され、製品化されているのでしょうか。
化粧品の素材、原料の基礎研究は世界中
で盛んに行われ、次々とシミやしわに対する
効果や、アンチエイジング効果が期待できる
原料が発見され、生成されています。
その作用メカニズムも遺伝子レベルで作用
するものもあり、毎年、そのような新原料を
配合した製品が発売され、プロモーションが
華やかに行われます。
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私が医薬品の研究開発から化粧品の開発
に転向した頃、最初に、当時の厚生省
(現・厚生労働省)の行政相談に行った際、
担当官の方から言われた言葉にショックを
受けました。
「化粧品は効かなくていいのです」
「効いては困ります」というひと言でした。
当時は「なんとふざけた担当官だ」
「化粧品を買うお客様の気持ちも
わからない石頭だな」と思いましたが、
よくよく考えたら、それが正解なのですね。

化粧品は老若男女問わず、誰が、いつ、
どこで、どのように使っても安全なものに
作っておかなければなりません。
そうなると、どうしても
「効果よりも安全性」を最優先に作ら
なければならないのです

従って、効果が期待される成分の濃度も
有効量をそのまま配合するわけには
いかないのです。
(ただし、医薬部外品〈薬用化粧品〉
の場合は既存の有効成分の配合濃度は
あらかじめ決められています)
更に、有効とされる量をそのまま配合
すると、とんでもない値段になる可能性
があるため、最終的には1/10、1/100の
濃度に落ち着いてしまい、特長となる
効果は、あくまでイメージだけに終わって
しまうことがあります。
これでは、最初に大きな志を持って化粧品
の研究開発を担当した人は報われません
よね。色々と、会社の事情、大人の事情が
あるようです。

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そんな中でも化粧品業界では「しわの改善」
という表現を認めてもらうことに成功しました。

今までは、保湿効果の拡大解釈で、
「乾燥による小じわを目立たなくする」
という表現までは業界内の自主基準で
実際にモニター試験を行ない確認できれば、
表現ができたのですが。更にもう一歩先に
進んで「しわの改善」が期待できるという
表現までOKになりました。
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モニター試験で用いられるシワグレードの基準見本

一昨年、最初にこの表現を認めさせた
メーカーさんは、敢えて保湿効果による改善
ではなく、成分そのものの効果をアピール
するため、その美容液自体の保湿効果は弱
くして製品化したようです。
厚生労働省など行政との駆け引きで非常に
苦労されたことがうかがえます。
そのように苦労して取った「しわ改善」の
表現も「しわ改善効果」とは、絶対に言え
ないのです。

それでは、「効く化粧品」というものは、
一般の市場に存在しないのでしょうか?

少なくとも、医薬部外品〈薬用化粧品〉で
あれば、肌荒れの予防、シミの予防の
効果は期待できます。
逆に、それ以上の効果は医薬部外品の
場合、処方の自由度が低いので期待は
できないかもしれません。
後は、その化粧品を作ったメーカーを
信じるしかありません。

ただし、「保湿効果」だけはご自身の感覚
でチェックできますから、ここをポイントに
製品をしっかり選んでみてください。

製品をつけた直後の感触。
つけた後10分後、30分後の感覚。
「保湿効果」の持続時間。
乾いた時のつっぱり感。
3日間ほど続けた場合の肌状態。

など、結構メーカーによって、製品によって
違いがあるものです。
「とろみ」が強いものが「保湿効果」が
高いわけではありません。
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左側から、
濃グリセリン ジメチコン BG(1,3-ブチレングリコール)


製品の「保湿効果」は水溶性の保湿剤だけ
でなくエモリエント剤といわれる油溶性の
成分との組み合わせで決まります。
そこで、大きく寄与する成分が写真にある
グリセリンBG,ジメチコン(シリコーンオイル)
などです。
ヒアルロン酸やコラーゲン、スクワランの
ような主役級のスター成分ではありません
が、影の実力者、名脇役の3成分です。
これらの成分は配合割合も多く、成分の
組み合わせで使用感の違いと
「保湿効果」に大きな差が出てきます。

今回の内容は少し難しく、化粧品メーカー
さんには失礼な話だったかもしれません。
しかし、医薬品メーカーの人間だった私が
初めて化粧品を開発するにあたって感じた
当時の疑問と矛盾を思い返して書いてみました。

最後にもう一言、当時の担当官の言葉を。
「効く化粧品を作りたかったら、
医薬品として出してください!」


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食と美容のスペシャリスト
トータルビューティーサイエンティスト
村本 敦比古